らくがき帳

2004年11月25日・感想らしきもの

ハウルの動く城、見てきましたですよ。

原作は有名なダイアナ・ウィン・ジョーンズさんの『魔法使いハウルと火の悪魔 』、そして製作は宮崎駿監督&スタジオジブリのスタッフ。

ジブリ作品が昔から好きで、新作が公開されるたびに映画館へ足を運んでいる私としては、この作品は当然見逃すわけにはいきませんよ。 何より中世ヨーロッパの雰囲気を持つファンタジー作品ということで、初期のジブリ作品に近い作品になるのかなーと、期待しながら公開日を待っていたわけです。

私は原作を一度も読んでいないので、 純粋に「1本の映画」として(もちろん原作のテイストは壊さずに)きれいにまとまっていればそれでいいんじゃないかな、と思いながら映画館に向かいました。

【以下、ネタバレを大幅に含みますので 映画をまだ見ていない方は読まないことをおすすめします】

 

 

 

そんなわけで、以下は映画を見た感想です。 ネタバレ&批判的な意見を大幅に含むので注意。

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最初に結論を言ってしまうと、 今回の映画は正直期待はずれというか、今までの作品に比べるとパワーダウンしている感じがしました。

ジブリ作品ゆえに、どうしても「名作」を期待してしまうのは仕方ないんですが、今作はそれ以前の問題のような気がします。 あきらかに「話の内容に矛盾があるし、展開が適当」なのですよ。

伏線を張っておきながらそれを最後までほったらかしたり、キャラクターの言動に違和感どころか嫌悪感を感じる点が多かったり、 映画内では一度も描写されていない出来事が、いつの間にか普通に「当たり前の事」にされていたり。 感情移入以前に、状況を理解できないこともしばしば。

シナリオの草稿か第一稿の段階で作ってしまったのでは?と思うほど、矛盾と無駄なシーンだらけで、起承転結もなく、 内容的にもまったく深みのない話になってしまっています。

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映像はきれいです。 『千と千尋の神隠し』等に比べるとやはり見劣りはするんですが、 ジブリ以外には描けない世界がそこにはありました。冒頭のソフィーとハウルが空を飛ぶシーンでは、ジブリお得意の飛翔感が出ていてすごくわくわくしましたし、久石さんの音楽もまた作品にぴったり合っていて、鑑賞中に違和感を感じることは一度もありませんでした。

キャラクターもみんな生き生きしています。
亡き父が残した帽子屋を切り盛りする、18歳の少女ソフィー。
偶然街中でソフィーに会い、彼女をトラブルに巻き込んでしまう魔法使いハウル。
ハウルを付け狙い、ソフィーを魔法で老婆にした荒地の魔女。
まるで生き物のように動くハウルの城。
そこに住む、弟子のマルクルと火の悪魔カルシファー。
ソフィーに助けられ、恩返しに後をついてくるかかしのカブ。
誰もがみな、個性豊かで魅力的。非常に好感が持てるし、見ていて楽しいです。

しかし、それゆえに… シナリオに納得が行かない点、あいまいな点がとにかく多すぎるのがものすごく残念なんです。

ちなみにこの文章を書いている時、 最初は「大きな矛盾点」や「どうしても納得いかない点」をピックアップして順番に分析していたんですが、 本当に多すぎて、きりがないのでやめました。素人目に見てもそのぐらい不自然なんですよ、このシナリオ。

もしかして原作もこんな感じなのか?と思ったら、 原作と映画はまったく展開が違うようです。今回の映画は、監督が描きたいシーンを(原作無視で)並べて、その隙間を埋めただけのような気がするのですが。 (戦艦のデザインなんかは、妙に気合が入ってましたね)

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この映画で一番問題なのは、 「誰に、何を伝えたいか」がまったく伝わってこないことのような気がします。そもそも、この映画はどの年代&性別をターゲットに作られているのでしょうか。

『純粋に子供向けのもの』『子供向けだけど、大人も楽しめるもの』『大人向けだけど、子供でも理解できるもの』『完全に大人向けなもの』 …どれにも当てはまらない気がするんですけれど。

子供向けにしては、あまりにも抽象的な表現や内面的な苦しみが多すぎます。見ていた子供達は完全に飽きていたり、鳥のハウルを見て「怖い…!」と怯えていましたよ。

大人向けにしては、ご都合主義や無意味なドタバタ劇が多い上に、メッセージ性も薄くて、見た後に何も残らない。

重いテーマは所々で出てくるんですが、『ただ単に作品内に混ぜてみただけ』という感じで、明確に問題を投げかけるでもなく、答えを出すでもなく、中途半端でぼんやりしたものが見え隠れするだけ。こんなことなら、答えのない重い問題を混ぜ込むのはやめて、単純明快に「見ていて楽しい」路線の映画にしてもよかったのでは。

最初に出てきた、「本当に帽子屋になりたいの?」という問いにも、結局ソフィーは最後まで答えを出せていないですよね。 魔法と戦争に翻弄されてドタバタしていただけで、ハウルもソフィーも、内面的には最初とほとんど変わっていない。中期以降の宮崎監督の作品にはどうも「大風呂敷を広げられるだけ広げたのはいいけれど、収拾がつかなくなったし時間もないから、適当にぐちゃぐちゃに畳んで、はいおしまい」みたいなところが見受けられるんですけど、今回の映画ではそれがものすごく顕著に表れてます。

完全にオリジナルならともかく、 ちゃんとした良質な原作があるのに何でこうなってしまったのだろう?と その点がものすごく疑問です。

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「千と千尋の神隠し」の時、宮崎監督が 『霧のむこうのふしぎな町』という、千尋のヒントになった児童小説について「正直、僕はその話のどこが面白いのか分からなくて、それが悔しくてね。 映画化することでその謎が解けるのではないかと思ったんです」と発言しているのを見て、(←千と千尋の神隠しのパンフレット参照) この小説が昔から大好きだった自分は文字通りぽかーんとしたし、ものすごく腹も立ったことをよく覚えていますが、もしかしたら、今回のハウルの動く城も、これと同じような気持ちで製作したのでしょうか。

小説なり、マンガなり、原作者がいて既に一つの形になっているものを、映画という別の媒体で新たに形にし直そうと思うのなら、 「原作を読んで、面白いと思い、作品内で原作者が言いたかったことをきちんと読み取る」ということは最低限必要なことだと思っていたんですけれど。監督の考え方は、どうやら私とは違うようです。

そもそも、原作者の言いたいことが小説の中できっちりと表現されている以上、 監督がそれを改悪してしまったり、自分の主張を勝手に足してしまうのは、原作者およびそのファンに対しても失礼なことだと思うのですが。

『魔女の宅急便』あたりは、原作と映画の内容は大幅に違うけれども1本の映画としてきちんとまとめていましたが、 『ハウルの動く城』は原作を無視した上に1本の映画としても不十分な出来なので、やはり納得がいかないし、見終わった後に理不尽な気持ちだけが残ります。

ジブリ作品が好きで、映画が公開される日を楽しみにしていたからこそ、どう書いてもこんなに批判的な文章の羅列になってしまう事が とても心苦しいです。

今回の映画は、『失敗作』とは言いませんが『未完成品』に見える、というのが私の正直な感想です。

 

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